第1章 剣道五段審査の基本的な理解
剣道の五段審査に求められる基準とは
剣道五段の昇段審査基準は、「剣道の基本と応用に錬熟し、技倆秀なる者」かつ「四段受有後4年以上修業した者」と全日本剣道連盟の審査規則に記されています。高い技術力とともに精神的な成熟が試される段位と言えます。四段までの審査との大きな違いは、地方審査の最高段位となることからも「攻めて機を捉えた先の技と相手を引き出しての応じ技」の練度が重要視される点です。これには、相手の動きを正確に見極めた上で、適切な攻防を展開する力が含まれます。また、単に技を決めること以上に、気迫のこもった打突、正しい姿勢、そして試合後の礼節が兼ね備わっているかが審査の基準となります。
立ち合いで重視されるポイント
五段審査の実技では、立ち合いの内容が大きく評価されます。具体的には、いかにして「間合い」を支配し、相手に隙を与えずに、先に自分の間合いを確保するかが鍵となります。また、正確かつ力強い打突を繰り出すだけでなく、仮にそれが有効打突にならなくとも、その背後にある「気合い」や「気勢」を充実させているか、さらには「残心」までしっかり縁を切らずに出来ているかが重要視されます。五段という段位では、勝敗を直接の基準とするのではなく、攻防の中で剣道の根本を体現しているかが問われる点に留意する必要があります。
剣道形審査で求められるもの
剣道の昇段審査では、実技だけでなく剣道形も重要な評価対象となります。本来は五段を受審するレベルの剣道家であれば、基礎的な動きは、打太刀・仕太刀双方とも確実に習得しており、かつ、自分だけでなく相手との調和を意識した動きが求められるはずです。しかしながら近年の昇段審査における、剣道形の審査は、審査過程の課題というレベルになってしまっているところもあり、受審者の方も、審査直前に、数回動きを確認する程度にとどまっている方が多いのではないでしょうか。とはいえ、せっかく実技審査をクリアしても、形の審査で不合格となる可能性は否めません。形の稽古も疎かにせず、足さばきや刀の振りの速さ・緩やかさ、さらには目付や間合いが細かく審査されると意識しながら、日々の稽古で基本に忠実な動作を繰り返し稽古をしておきましょう。
学科試験の具体的な内容と対策
五段審査では、実技と並んで学科試験も重要な要素となります。学科試験では、剣道の理念、歴史、礼法、さらには現代剣道の課題や理解に関連する内容が出題されることが一般的です。特に、「剣道の心技体における五段の在り方とは何か」といった抽象的なテーマについて、自身の経験を基に論理的に説明できる力が求められます。対策としては、各地域の剣道連盟HPに掲載される、学科試験の内容や過去問をチェックしたり、剣道の基本書や指導書を熟読するなど、日々の稽古の中での気づきをノートにまとめておくことが効果的です。また、自分の考えを文章化する練習を通じて、試験場で落ち着いて答案に書ける準備を整えておきましょう。コロナ禍以降は、審査申込時に回答を提出する方式に変わりましたのが、剣道を学ぶ者として、丁寧な回答を心掛けたいものです。
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