今回はいよいよ「素振り」のポイント解説となります。剣道を始めて間もない方、打突に冴えがないと感じている方。上達の秘訣はすべて素振りの中に含まれていると言っても過言ではありません。正しくない素振りを何千本、何万本と頑張ったところで上達はしません。今回はみるみる上達するポイントを解説しますので、改めて自分の素振りを見つめなおすきっかけになれば幸いです。
第1章 正しい素振りをマスターしよう
素振りの前に
素振りを行う前にまず大事なポイントは、「正しい構え」と「すり足」ができているかを確認することです。正しい構えについてはこちらで解説していますので、読まれていない方は、先にコチラを読まれてから再度素振りの解説を読んでいただくことをお勧めします。
ポイント①振りかぶりは力を抜いて
それでは早速、正しく構えた状態から素振りを始めましょう。脇や肘を締めて構えた状態の腕をそのままの形で、左拳をおでこの位置までスッと上げて振りかぶります。
決して、肘を曲げたり手首を返したりしないようにします。また、振りかぶったときに脇を開いたり、手の内を緩めたりしないようにすることが大切です。特に手の内を緩んでしまうことが多いので、注意しましょう。
正しく振りかぶれているかどうかを判断するには、竹刀の先(以下剣先)が頭の後ろ斜め45度の位置に来ているかを鏡などでチェックしましょう。
剣先が頭の後ろ斜め45度よりも低い位置にある場合は、おそらく、左拳とおでこの距離が離れてしまっていると思いますので、必ず左拳とおでこを近づけるように意識することで改善できます。 また、手の内の確認では、親指が右や左を向いていないかチェックします。親指の向きが正しい場合は、正面の相手に向いているはずです。
ポイント②振りかぶりは左手中心に
初心者の方に多いのですが、振りかぶるときに右手で引き上げてしまう人がいます。日本人は右効きの人が多いので、初めて竹刀を振りかぶろうとするとどうしても右手に力が入ってしまうことが原因です。
しかし右手で引っ張ってしまうと、竹刀は体の右側に振りかぶる形となり、剣道でいうところの正中線(体の中心)を外れてしまいます。これが癖づいてしまうと正しく早い打突もできなくなってしまうので、最初が肝心です。
正中線を外さないように振りかぶるためには、左手が体の中心をとおるように真っ直ぐ上げるということが大切です。
最初はゆっくり確認しながら、正しい動きができるようになってきたら、少しずつ振りかぶる速度を上げていきましょう。とにかく、脱力して余計な力を使わないという事が大切です。
ポイント③体幹を意識して竹刀を振ろう
それでは振りかぶりの竹刀の位置を確認できたら、一旦元の正しい構えに戻りましょう。素振りは上半身の動きに意識が行きがちですが、実は下半身とのスムーズな連動が不可欠です。手の力だけで振ろうとしても、必ずブレてしまいます。下半身を安定させて、体幹を意識するといいと思います。
体幹を意識するための稽古例として、一連の流れをまとめましたので、参考にしてみてください。
- 真っ直ぐ立った状態で、足だけを正しく構え、両手は腰にあてます。
- まず右足をスーッと前に擦りだします。
- 右足を前に移動している際は、当然左足で体を支えて踏ん張っている状態です。左足の踏ん張りを意識しながら体の重心を前に移動し、右足が床に着く瞬間に、左足を素早く引き付けて最初の構えに戻ります。
- この一連の動きで、体が左右にグラグラしたりしないように意識をします。
ポイント④左手を中心に振る
では実際に振りかぶり~振り下ろしまでやってみましょう。 まずは一連の動作の流れから。
- 右足を動かしてから、左手を大きく振りかぶります。決して手から先に動かさないように注意しましょう。
- 左手を前に押し出すようにすると自然と右手も下がりますので、その動きを利用して、竹刀の先(剣先)が自分の顔の正面に来るように、真っ直ぐ竹刀を振りおろし、同時に左足を素早く引き付けます。引き付けた左足と右足の位置関係は、最初の構えの時の足の位置と同じ配置になります。引き付けて左足が右足を追い越したり、右足と揃ってしまわないように注意しましょう。
- 振り下ろしたとき、右手の位置は自分の肩と同じ高さ、左手は自分のみぞおちと同じ高さを目安とします。
振りかぶり~振り下ろし迄、一貫して注意しないといけない点があります。それは左手を中心に動かす意識を持つことです。日本人の多くは右利きの方が多いので、左手を意識しなければ、必ず右手に力を入れて振りかぶり、振り下ろすという風になってしまいます。剣道の構えは左手が手前、右手は体より離れた位置になりますので、右手に力が入ってしまうと、左右のバランスが崩れるため、振りかぶりから振り下ろしまで、剣先が正中線(体の中心)から外れてしまいます。
ですから、素振りでは体に近い左手を中心に振ることを意識して、右手は添える程度の気持ちで竹刀を支えるようにするといいです。
ポイント⑤振り下ろしは釣り竿でルアーを投げるように
素振りの稽古の際に、子供たちによく伝える例えとして、素振りの振り下ろしは釣り竿を振り出すようにしようと言っています。
素振りをする人を横から見ているとイメージしてください。構えたとき、左手が体の中心に一番近いですよね。そこから振りかぶるとおでこの前に左手が来ます。振り下ろしで、剣先が左手を中心に弧を描くように振ると、右手の肘だけが伸びて、左肘は曲がった状態で変な素振りになるはずです。
同じように横から見たイメージで、振り下ろしの際に左手を前に出しながら、剣先が弧を描くように振ってみたらどうでしょう。先ほどよりも両手が伸びて、剣先がビューンと先に飛んでいくような素振りになっていると思います。これに似ているのが釣り竿でルアーを遠くに投げる動作です。
釣り竿は竹刀よりもしなりがあるので、その反動を利用して、ルアーを遠くに飛ばせますよね。その釣り竿でも投げ方が悪ければ遠くに飛ばすことはおろか、下手すると足元の先にルアーが落ちてしまいます。両足は揃えた状態で構いませんので、このような例えをイメージして、上半身のよいイメージと悪いイメージの違いを意識して稽古をすると、きれいな素振りができるようになります。
ポイント⑥振り下ろしたときの手の位置を確認しよう
素振りの解説も終盤です。振り終わりの正しい手の位置について解説していきます。釣り竿でルアーを投げるように振ると両手が伸びて、より遠くを打突することができます。振り終わりの手の位置は左手拳がみぞおちの前、右手拳は右肩の高さもしくは剣先が相手の鼻先に来る位置で収まるようにします。
素振りをする際は必ず、自分と同じ身長の相手が前にいるとイメージをして素振りをします。
特に右手の位置が高いところで止まってしまう素振りをよく見かけますが、それでは、剣先は相手の面に届いていないのがわかると思います。これでは何千本、何万本と素振りをしても上手に打突することはできません。
また、右手が伸びきった状態で肩よりも下にくる素振りも見かけます。拳一個分程度下がる分には各道場の教えもあるので許容範囲ですが、それ以上下がっている場合は、実際の打突では冴えが生まれず、より遠い間合いで打つこともできません。 目安として、右手拳が右肩の位置、左拳がみぞおちの前に収まるように、振り終わりを意識してみましょう。
ポイント⑦力を入れるのは振り下ろした最後の一瞬だけ
さあ、いよいよ最後です。振り終わりの手の位置が正しくても、そこで終わりではありません。竹刀が振り終わる一瞬だけ、両手を内側にギュッと絞り込むように力を加えます。
両手の小指・薬指・中指の順でキュッと絞るイメージです。すると竹刀の剣先が振り下ろされる力と止まろうとする力が作用して、手首にスナップが生まれ、剣先が一瞬ビュンと振られます。これがいわゆる冴えの部分です。
肩から動かして肘を伸ばしながら、最後に手首のスナップを利用して冴えを出す。そして剣先がビュンと振られたらすぐに脱力しましょう。素振りで力を入れるのはこの最後の一瞬だけです。竹刀を腕の筋力で振ろうとしても、疲れるだけでスピードを上げることもできません。
まとめ
今回は素振りを8つのポイントに分けて解説してみました。基本は各道場の先生の教えが絶対ですので、あくまで参考程度にしていただければ嬉しいです。素振りは剣道の基本ですので、毎日目標を決めて正しい素振りの稽古をすれば、どんどん上達するはずです。どんな稽古でもそうですが、量よりも質が大事だと思います。上達に近道はありませんが、まずは質を高めたうえで、人よりも量をこなすことが最短ルートと言えます。日々精進して稽古に励みましょう。
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